つくば国語塾

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未来の大学入試の研究ー国語(3)

共通テストの制度設計 現行試験の再検証を 
駒形一路 静岡県掛川西高校教諭 

2017/8/14付
 
 
 
 

 文部科学省が高大接続改革の一環として2020年度に導入する「大学入学共通テスト」の実施方針を示した。進路指導の経験が長い静岡県掛川西高校の駒形一路教諭(国語)に寄稿してもらった。

 今回の入試改革の特徴の一つが、大学入学共通テストの国語と数学における記述式問題導入である。国語に関して言えば、背景には大学入試センター試験受験者を数多く抱える高校の国語の授業が読解偏重になっていて、改革が主唱する「学力の3要素」が示す「表現力」を軽視しているという批判がある。

 そこで、生徒の表現力を養うために共通テストに「条件付き記述式」を導入し、高校の国語の授業を変えようというのが改革の筋書きである。とはいえ、50万人以上が受験する大規模テストでマークシート方式の全廃は現実的ではなく、マーク式と記述式を併用する。

 実施方針で気になるのは、100分の試験時間内にマーク式大問4題と記述式大問1題を課すことだ。現行のセンター試験を十分に検証していれば、この形態はない。センター試験・国語の最大の問題は80分という時間の短さ、慌ただしさにあるからだ。時間内に問題文を読みきれないまま、解いている受験者も少なくない。その上に、記述式大問1題を20分で解かせれば慌ただしさは増すばかりだ。

 そもそもマーク式と記述式という異なる解答方法を求め、素点と段階値という異なる評価方法を用いるならば、センター試験・英語の筆記とリスニングのように、それぞれ異なる時間帯を設定するのが自然である。本気で表現力を重視するならば、推敲(すいこう)の時間も含めせめて30分程度の別枠設定は必須だ。

 

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 評価についても疑問を抱く。3段階から5段階の段階評価となるようだが、結局のところ各大学はこの段階評価を数値化して選抜材料とするはずだ。そうでないと傾斜配点の機能が失われる。文部科学省が強く独自性を求めている各大学の入学者受け入れ方針は、この傾斜配点の比率にこそ具現化されるはずだが、それに支障を来すようでは本末転倒である。

 複数の国立大学関係者と話をすると、共通テストが導入される20年度を待たずに各大学独自の2次試験(個別試験)の配点を高くする動きを感じる。いまだ全体像がつかめない共通テストに対する大学の不信感は強い。

 逆に言えば、基礎学力の測定という点でセンター試験への信頼度は非常に高いということだ。前身の共通1次試験も含めれば40年にも及ぼうとする蓄積のもと、センター試験は年ごとに改善を重ね、作問から実施・採点・結果通知に至るまで、大規模共通試験としての完成度は極めて高い。

 日常の高校の授業で定着させることが可能で、なおかつセンター試験で測れていた基礎学力の成果が、共通テストの導入で測りにくくなってしまっては元も子もない。少なくない高校・大学が共通テストの制度設計にある程度の関心は持っても半ば冷めた目で見ていることは、ここまでの議論があまりに迷走していたからにほかならない。

 今回、実施方針とともに示された「思考力・判断力・表現力を重視した作問となるよう見直しを図る」とされたマークシート式問題のモデル問題例にも、一部に著しい難化が見られる。各科目の平均点を6割に置く現行センター試験でも、最上位層・最下位層では、問題が易しすぎるあるいは難しすぎるために、識別機能が働いていない。

 示された方向で共通テストの制度設計がされると、識別機能の一層の低下は必至だろう。識別機能の低い共通テストに入学者選抜試験としての価値はなく、受験者数の想定も難しくなる。受験者数を想定できなければ受験者層も特定できず、平均点管理も危うくなるという悪循環に陥る可能性も決して低くはない。

 

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 これは、共通テストに、入学者選抜という本来の機能以外の目的を詰め込もうとしたことに由来するのではないか。

 共通テストの国語のモデル問題例は、学習指導要領が重視する「言語活動」(討論や対談)の形をとった作問となっているが、共通テストで出題されるからといって、日常の授業が言語活動に重きを置くようになると考えるのは短絡的だ。すでに多様化した大学入試で、センター試験が果たしてきた役割についても十分な検証がされているようには思えない。

 大学入試を変えれば、高校教育も大学教育も変わるはずだ、とする考え方は一面的なものにすぎない。高校も大学も、両者の関係も、現場の地道な営みでひと昔前では考えられないほどに着実に変化してきた。選抜を伴う大規模共通試験に、高校教育、大学教育を改善する機能まで持たせることが、真の高大接続改革ではないはずだ。

 今回の改革も、当初は複雑化しすぎたセンター試験の簡素化を目ざしたのではなかったか。それ自体は高校現場も望んでいることだが、実際に出てきた共通テストの制度設計は、それとは逆の方向に進もうとしている。

 繰り返しになるが、共通テストのよりよい制度設計にはセンター試験の検証が不可欠だ。どこが優れていて、改善点は何なのか、それぞれを分析することで共通テストの姿も決まってくる。

 今年度、来年度のプレテストは5万人規模、10万人規模で実施される。高校現場の協力を得ずして、これらの実施は不可能だ。主催者側にとって必要なデータを集め、検証の材料とするだけでなく、生徒とともに協力する現場教員の声にも積極的に耳を傾け、最終的な制度設計にいかそうとする姿勢を切に望みたい。