つくば国語塾

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未来の大学入試の研究ー国語(2)

大学入試新テスト記述式案 高校国語ゆがめる恐れ 
南風原朝和 東京大学理事・副学長 

 

 
 
 
 

 大学入試改革を検討中の文部科学省が、新テストの国語記述式で2種類の問題を用意し大学に選択させる案を示した。高大接続システム改革会議の委員を務めた東京大学南風原朝和理事・副学長は高校の国語教育をゆがめる恐れがあると懸念する。

 現在の大学入試センター試験に代えて2020年度から実施するとされている大学入試新テストでは、国語の記述式について、2つのパターンの問題を導入することが文科省から提案されている(図参照)。

 新テストはセンター試験と同様、受験者の学力が広範囲にわたる大規模共通試験である。そのため、学力の上位層でも下位層でも、その中で学力の高低を見分ける識別力をもつように、難度の高いものから低いものまでまんべんなく、相当数の問題を用意することが求められる。

 記述式の問題数について、パターン1では言及がないが、文科省の説明を聞くと1問だけの可能性が高い。パターン2も1問ないし2問とされている。特にパターン1は各大学での採点ということになっているが、採点にかかる労力に見合う識別力がその1問で確保できるのか、つまりそれぞれの大学においてテストとして機能するのか甚だ疑問である。

 たった1問の共通問題のために特別な採点態勢を用意するよりは、個別の大学または学部のニーズに合った内容および数の記述式問題を出題するほうがはるかに効果的であろう。

 

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 問題数以上に心配な点は、特にパターン2において、採点の統一性や効率を重視するあまり、表面的、機械的な採点基準が適用されないか、ということである。

 文科省は条件付き記述式を採用するとしているが、それと同形式とみられる全国学力・学習状況調査の問題と採点基準を見ると、その心配が一層強くなる。例えば、今年4月に実施された中学国語Bに次の問題がある。

 【問】雑誌の記事を読んで、宇宙エレベーターについてあなたが疑問に思ったことを、「なぜ」、「どのような(に)」、「どのくらい」という言葉のいずれかを使って、20字以上、40字以内で1つ書きなさい。

 【正答例】宇宙エレベーターの実現には、どのような課題があるのか。

 【誤答例】宇宙エレベーターに乗るための費用はいくらなのか。

 正答の条件は、宇宙エレベーターについて疑問に思ったことを1つ書いていることと、指定の言葉を使って指定の文字数で書いていることの2つである。ここに挙げた誤答例は具体的で適切な疑問文だが、指定された言葉を使っていないので0点となる。もし「いくら」を「どのくらい」と書いていれば正答だった。

 新テストでも、この問題と同様、作問において設定した条件への適合性を中心に評価し採点することが考えられている。指定された言葉の使用など、細かな条件に従って文章を書くことは、大学でも、また社会に出てからもほとんどない。高校までの教育でも通常はほとんどないだろう。

 そうした高校教育、大学教育、あるいは社会生活の文脈とは関係なく、数十万におよぶ答案を統一的、効率的に採点できるからという理由だけで、その形式を採用しようとしているのである。このような出題を大学入試レベルで続けていると、高校の国語教育がその準備のためにゆがめられかねない。

 文科省が共通試験に記述式を導入することにこだわる理由として、高校教育が選択式問題を解く練習、消去法で間違い探しをする練習に終始しているということが挙げられることがあるが、これは事実とは異なる。国語や総合的な学習の時間での活動、また定期試験の記述式問題などで、高校生は書く経験をしているし、卒業研究を課し、1万6千字以上の論文の提出を必須としている学校もある。

 もちろん、生徒の記述力を高めることは非常に重要であり、今後さらに力を入れていくことが必要だが、それは共通試験に条件付き記述式のような不自然な形のものを導入してそれに向けて準備させることによってではなく、学校での継続的で地道な活動によるべきであろう。

 

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 一般に、記述力の高い生徒は、ある一文を文章中のどこに置くのが最も適切かを判断したり、接続詞としてどの言葉を使うのがよいかを判断したりすることができる。こうした判断は文章作成において必須のものであるが、その能力は選択式問題でも問うことができる。米国の大学入試の共通試験SATの「記述と言語のテスト」は選択式でそのような能力を評価する優れたテストであり、参考になる。

 記述力を評価したいから試験で記述させるとか、あるいは思考力を評価したいから試験で思考させるというように短絡的に考えがちだが、試験で重要なことは、評価したい能力の高低が得点の高低に正確に反映されることである。例えば思考力についても、その場で1問につき数分間思考させるよりも、日ごろから長時間かけて思考した結果としての理解の深さ、質を測るほうがより妥当な評価になりうる。

 センター試験の改革にあたっては、そうした試験のあり方の原点に立ち返って、また高校教育への影響も考え、現状のどこをどのように改善する必要があるのか、十分な実証的、専門的検討をすべきだろう。

 センター試験の総括もなしに、根拠のない期限を決め「廃止ありき」「記述式ありき」で突き進むのは、高校生・大学生に育みたいアカデミックな態度からかけ離れていると言わざるを得ない。